<タックスニュース>

「雇用促進税制」素案まとまる  気になる実効性――

 菅直人首相の指示で政府税制調査会が具体案を検討していた雇用促進税制の素案がまとまった。当該年度内に一定以上の雇用を増加させた企業に対して、租税特別措置で法人税を軽減する方向で、法人税を支払っている約3割の黒字企業が対象になる。
 技術上の課題だった、税務署が把握していない各企業の雇用状況を把握する方法は、ハローワークが確認した雇用保険の被保険者の情報を、企業が税務署へ申告する際に添付することになりそうだ。その際、①一定以上の雇用を増加させる②事業者の都合で離職させない③給与支払い総額を一定以上増加させる――の3点をいずれも満たすことを条件とする方向で調整する。
 検討の過程では、「雇用を守る」という大目標よりも「首相の指示を形にする」方が優先されたきらいがある。「すべての企業が納付している社会保険料を軽減してはどうか」との意見もあったが、「菅首相の指示は税制上の措置だから」(政府税調幹部)という理由で押し返されたこともあった。
 そもそも「雇用を税制で促進できるか」という根本的な問題には踏み込まないままに制度設計した雇用促進税制。経済界からは「税制は雇用のインセンティブになるものではなく、こんな制度はどの企業も使わない」と冷ややかな声も聞こえてくる。

<タックスワンポイント>

武富士裁判 最高裁が口頭弁論決定  創業者一族の逆転勝訴!?

 巨額の贈与税申告漏れをめぐり、高裁で国側勝訴となっていた「武富士裁判」が、見直される可能性が高まってきた。消費者金融大手(現在会社更生法申請)「武富士」の創業者一族による、海外との税制の違いを巧みに利用した大規模な節税スキーム。最大の焦点「生活の本拠地はどこか」に、答えが出ようとしている。勝訴となれば、既に納めた税金の還付で、莫大(ばくだい)な還付加算金(利子)を長男は手にすることになる。
 武富士創業者一族への追徴課税取消訴訟の上告審で、最高裁判所第二小法廷は、平成23年1月21日に双方の言い分を聞く口頭弁論を開くと決定した。事件は同11年、当時武富士の香港法人代表を務めていた武富士創業者(故人)の長男が、武富士株を大量に保有するオランダ法人の株(1653億円相当)を両親から生前贈与されたことに端を発する。
 当時の税法では、海外居住者が海外財産を贈与された場合については課税対象外とされていた。そのため、長男は贈与税の申告をしなかった。しかし国税当局は「贈与税回避のための移住したかたちを作っただけ。実質的な居住地は日本」と認めず、1653億円という贈与税としては史上最高の申告漏れを指摘、1330億円の追徴課税を行った。東京高裁は、香港滞在が租税回避目的だったという事実関係のもとでは、香港と日本の滞在日数のみを比較するだけで「住所地」を判断するのは相当でないと判断し、国側の勝訴判決を下している。
 最高裁が弁論を開くことは、高裁判決が見直される可能性が非常に高くなったことを意味する。武富士長男は、納税を済ませてから争っているので、勝訴となると、返還される税金に数百億円もの還付加算金が付いてくる。経営破綻後の武富士経営陣のボロもうけに、世間からどのような声が上がるのかも注目される。

税理士法人早川・平会計