<タックスニュース>

揺らぐ事務所ビルの固定資産税  札幌高裁で逆転判決

 同じマンション内にある住宅部分と事務所部分で異なる算定方法を用いた固定資産税が適正かどうかを争っていた裁判の判決が札幌高裁で9月20日にあり、竹内純一裁判は一審判決を取り消し、用途ごとに別の方法で算定した札幌市が正しいとする判断を下した。全国でも一部の自治体しか適用していない”ローカルルール”が「合理的」と認められたことで、今後全国の同様の複数用途マンションで固定資産税の見直しを求める声が出て来ることも予想される。
 原告の不動産業者は2011年にマンションの1室を購入。マンションは地上10階建で32の住居部分と1つの事務所からなり、取得したのはそのうちの事務所部分だった。業者は12年分の固定資産税を一度は決定通知の通りに納めたものの、他の住居に比べて高額になっていることを不服として13年3月に提訴した。
 札幌市は税額を算定する際に、築年数などに応じて減額をする「経年減点補正率」と呼ばれる係数を用いた。この補正率は用途ごとに異なり、対象が住居でなく事務所と判定されると税額が高くなる。多くの自治体では1つの建物に住居部分と事務所部分が混在している場合、その割合に応じて「主たる用途」を決定し、すべての分譲区画について単一の補正率を適用しているが、札幌市をはじめ横浜市や大阪市など一部の自治体では”ローカルルール”として区画ごとに用途を按分して税額を計算している。
 原告業者は、この独自運用が「マンションの区分所有は、按分して固定資産税の納付義務を負う」と定めた地方税法352条に違反しているとして訴えを起こした。それに対して市は「異なる補正率を用いたほうが適正な評価になる」と反論していた。
 今年1月の一審判決では、「地方税法は用途で区分して評価することを予定していない。用途によって経年劣化が異なるわけではない」として、建物の主な用途が住居である以上、建物全体の価格を住居として定めて専有する床面積に応じて税額を算定すべきとし、市に本来の税額との差に当たる約62万円の支払いを命じた。
 だが高裁では、「地方税法は固定資産の評価基準について市町村長に一定の裁量を与えている」として、市の独自運用は地方税法違反には当たらないと認定。一審判決を取り消し、市の主張を認めるとともに、納税者による差額分の返還の求めを棄却した。
 裁判でポイントとなったのは、固定資産税の評価方法は総務大臣が告知する固定資産評価基準がベースとはなっているものの、詳細については自治体ごとに運用が異なることだ。竹内裁判長は「独自運用は自治体の裁量であり、地方税法違反ではない」と判断した。
 判決のこの部分だけを見れば、固定資産税の算出は自治体の運用に委ねられており、納税者にとって得なことはないようにも見える。だが竹内裁判長は、「区分ごとに用途が異なり、構造上も明確に分けられるなら、建物の客観的状況や区分所有者間の税負担の公平を図る観点から(異なる補正率を用いることは)合理的だ」とも述べている。ということは、主たる用途が事業用であるマンションの住宅部分に住んでいれば、「区分されず統一された補正率による高い税額は不当だ」と主張することで、これまでより税額を抑えられる可能性もゼロではないだろう。
 問題の根本は、簡素かつ公平であるべき税で自治体によって微妙に異なる運用がなされているということだ。固定資産税は地方税であるため、それぞれの自治体が課税主権を持つこと自体は間違いではない。しかし違いがあるのなら合理的な理由があってしかるべきだし、納税者に対して十分な説明が尽くされるべきだろう。
判決を受け、原告業者は上告する姿勢を示している。


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<タックスワンポイント>

宗教法人の課税・非課税の境界線は?  神前婚は収益事業ではないが…

 寺や神社などの宗教法人は、宗教活動による所得については課税されないが、収益事業で受け取った所得には法人税の納税義務がある。
 法人税法施行令には、課税対象になる収益事業として「物品販売業」「不動産貸付業」「旅館業」「倉庫業」などの34種類の事業が列挙されている。
 例えば、神前婚や仏前婚などの結婚式の運営は宗教活動であり、収益事業にはならないが、挙式後の披露宴のための宴会場の提供、飲食物の提供、衣装の貸し付けを有料で行うときは、席貸業や飲食業、物品貸付業として収益事業になる。
 寺が観光客の宿泊を受け付ける「宿坊」も収益事業(旅館業)に該当する。ただし、宗教活動に関連して利用される簡易な共同宿泊施設で、その額が全ての利用者につき1泊1千円、食事を提供する宿坊は2食付きで1500円以下であれば課税されない。
 宗教法人が境内の一部を駐車スペースと定め、時間極めで不特定の人、または多数の人に有料で貸すときや、月極めで継続して同じ人に貸すときに料金を受け取る場合は収益事業(駐車場業)になる。駐車場用として土地を貸し付ける事業(不動産貸付業)も課税対象だ。
 また、寺で販売するお守りやお札、おみくじの代金を受け取ったときは、実質的な喜捨(金品の寄付)とされ、その所得に税金はかからない。一方で、一般の物品販売業者でも販売するような絵はがき、写真帳、暦、線香、ろうそくの販売は収益事業(物品販売業)とされ、課税の対象となる。
 なお、収益事業を行わず、法人税の確定申告書を提出する義務のない宗教法人でも、布施収入などを含めた年間の収入金額(資産の売却による収入で臨時的なものを除く)の合計額が8千万円を超えるときは、その事業年度の損益計算書を所轄の税務署に提出しなければならない。

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