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クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件  国賠訴訟は請求却下

 ストックオプション(自社株購入権)の行使などにより得られた所得を申告しなかったとして所得税法違反に問われ、裁判で無罪が確定した金融大手クレディ・スイス・グループ(CSG)の日本法人、クレディ・スイス(CS)証券の元部長、八田隆氏が国に5億円の損害賠償を求めた国家賠償請求訴訟で、東京地裁の河合芳光裁判長は3月12日、「検察官の判断過程に明らかに合理性がないとはいえない」として、八田氏の請求を全面的に退けた。東京国税局が告発して東京地検が起訴した事案で初めて無罪判決を勝ち取った八田氏だが、国賠訴訟では完敗となった。
 CS証券の集団申告漏れが明らかになったのは2008年11月。同社では賞与の一部をCSGのファントムストック(自社株連動型報酬)やストックオプションという株式の形で受け取る仕組みになっており、こうした株式報酬は社員が米国の系列証券会社に開設した証券口座に付与されていた。日本では会社員の給与や賞与にかかる所得税は会社側に源泉徴収の義務があるが、外資系企業の場合、海外で支払ったものについては会社側にその義務はなく、社員自身が確定申告しなければならない。だがCS証券ではその趣旨が社員に徹底されておらず、海外で株式報酬を受け取った約300人の社員、元社員のうち、約100人は「所得税は源泉徴収されている」と誤解して、全く申告していなかった。
 八田氏もそのひとりであったが、無申告額が07年までの3年間で約3億6000万円と他の社員に比べて大きかったうえ、「意図的な所得隠しではない」との主張を崩さなかったことから、東京国税局査察部は約100人の無申告者のうち八田氏だけを東京地検特捜部に刑事告発した。
 ところが告発を受理した東京地検特捜部はなかなか事情聴取に着手できず、八田氏がようやく特捜部から呼び出されたのは、告発から1年7カ月も経過した11年9月のこと。特捜部が八田氏を起訴するには、査察部から提供された証拠では不十分で、さらに特捜部が独自に持ち出した証拠でさえ同様だったことが、のちの裁判の過程で明らかになる。つまり、この事案は初めから全くの”無理筋”だった。
 八田氏は査察部の事情聴取の段階から脱税の意図を全面否認。これに加えて、(1)CS証券で税務調査された約300人のうち約100人が無申告だったことに鑑みれば、事態の責任は源泉徴収しなかった会社側にあった、(2)米国のゴールドマン・サックス証券では、海外で付与する株式報酬について社員の申告漏れを防止するために源泉徴収している――などと主張した。
 東京地検特捜部は11年12月、07年までの2年間の所得税約1億3200万円を免れたとして、ようやく八田氏の在宅起訴に漕ぎ着ける。だが1審の東京地裁(佐藤弘規裁判長)は13年3月、「脱税の認識があったと認めるには疑問が残る」として、八田氏に対して無罪判決を言い渡した。
 さらに、検察側が控訴した2審でも、東京高裁(角田正紀裁判長)は検察側の取り調べ請求を全て却下し、即日結審。14年1月には「被告人が積極的な所得秘匿工作を行った事実が認められない」などと、1審よりさらに踏み込んだ事実認定で控訴を棄却したため、検察側は上告を断念、八田氏の無罪が確定した。
 東京高検からは「明確な上告理由が見当たらないので、上告はしないこととした」との一文が書かれた書面が出されたのみで、八田氏に対する謝罪はなかった。
 14年5月、八田氏は「捜査権力には冤罪の原因を解明し、フィードバックする機能が欠如している」として、5億円の国家賠償請求訴訟を提起した。当初の主な目的は「どのような理由で起訴に至ったのかを明らかにする」ことだったが、審理の争点は次第に「1審の無罪判決に対する検察の控訴は適法だったのか」に絞られていった。
 最高裁の判例によると「刑事裁判では1審で取り調べた証拠のみで控訴審を逆転有罪とすることはできず、控訴するには新たな証拠の取り調べを請求し、それが採用される合理的な見通しがあることが必要」とされている。ところが八田氏の2審公判では、控訴した検察側が取り調べ請求した証拠はおよそ採用の余地のないものばかりで、東京高裁は即日結審。このため東京地検の控訴の妥当性が争点となり、1審で公判を担当した廣澤英幸検事の証人尋問が開かれる異例の事態となった。
 だが判決で河合裁判長は、控訴の違法性について「控訴時の各種の証拠を総合勘案すると有罪と認められる嫌疑があったと言えるので、控訴審で有罪判決を得る見込みがあるとの検察官の判断に明らかに合理性がないとは言えない」と認定。告発と起訴にも合理性があるとして、八田氏の主張をすべて退けた。
 判決後の会見で八田氏は「検察側の控訴時と起訴時の判断基準が同じというのは納得できない。検察側の控訴が認められているのは日本の司法の特殊性で、これを正しい方向に変えたい」と話し、控訴する方針を明らかにした。

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<タックスワンポイント>

NISA非課税終了時の2つの選択肢  上限を超えて投資できる「ロールオーバー」

 「貯蓄から投資へ」の合言葉のもと導入されたNISA(少額投資非課税制度)では、投資して得た利益の全てが非課税となる。利益が1千万円に達しようが1億円を超えようが一切税金がかからないというのは夢があるが、年間の投資上限額が120万円、非課税期間が5年間では、なかなかまとまった利益が生まれづらいのも事実だろう。
 だがこれらの上限を突破できる方法が一つだけある。それが非課税期間終了時に使える「ロールオーバー」と呼ばれる制度だ。5年間の非課税期間が終わると、NISA用の口座の残高は課税口座に移され、その後も投資を続けるなら利益には当然所得税が課される。しかしこの時にロールオーバーを選べば、NISA口座に残った残高を使って、再びその年から5年間、非課税で投資を続けられるのだ。しかもその時に元手となる投資資金は、2017年度税制改正で上限が撤廃され、青天井となっている。
 例えばNISAが開始した14年に当時の年間上限額である100万円で投資をスタートした人が、非課税期間の最終年である今年までに、その額を5倍の500万円まで増やしたとする。そこで500万円を課税口座に移してしまうと、5年間で得た利益400万円は非課税になるものの、今後投資して利益を得た時には、元手500万円との差額に譲渡所得税が課されてしまう。一方ロールオーバーを選べば、改めて19年度スタートのNISA口座に500万円が入り、そこから5年間で5倍の2500万円まで増えたとしても、全額が非課税となる。どこまで増やせるかは腕次第とはいえ、投資期間が単純に倍になるというのは魅力的な話だ。
 注意点としては、ロールオーバーの枠に上限はないものの、その年の投資上限枠をつぶしてしまう点には気を付けたい。つまり120万円以上をロールオーバーすると、その年はもうNISA口座への入金ができなくなる。
 ロールオーバーは元手が増えた時だけでなく、減ってしまった時にも有用だ。非課税期間が終了した時にNISA口座のお金を課税口座に移すと、株などの取得価額はその時点でリセットされてしまう。100万円で買った株が5年間で70万円まで値下がりしていれば、「70万円で買った株」とみなされ、その後100万円まで値戻りした時には30万円分の利益があったとして課税されてしまうのだ。この時にロールオーバーを選べば、取得価額100万円の株として6年目以降も運用できるので、元値に戻ったからといって不要な税負担を課されることはない。
 もちろん値下がりしたケースでも、ロールオーバーした分はその年の投資枠を使ってしまうことに変わりはない。5年を区切りに損切りして新たな投資に乗り出すのか、粘り強く持ち続けるのか、運用者の腕が問われそうだ。


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